2-2. リソース配分を大胆に決める

エリア集中とCS連動の戦い方

前回の2-1. 事業を立体的に捉える|複数の切り方で構造を分解するで、戦略づくりの入口を書きました。まずどこを目指すのかというゴールを定め、そのゴールを実現する手段として「どこで戦うか」「その場所をどう登るか」を見極めていく。その見極めのために、事業を複数の切り口で構造分解して立体的に捉える。そうして、どこがレバーになりそうかが見えてくる、という流れでした。

目指すゴールとレバーが見えてきたら、次の問いは、そのレバーに限られたリソースをどう「大胆に」配分するかです。

鍵になるのは、まさに 「大胆に」 という一語です。2-1で、自分は「アロケーション(配分)の意思決定こそが、経営でありマーケティングだ」と書きましたが、限られたリソースを、あちこちに薄く広げてしまうと、どこにも効かないということが起き得ます。全部に少しずつ配ると、いかにも安全に見える。けれど、どの場所も臨界点を超えられず、結局、何も立ち上がらない。配分の失敗の多くは、ここで起きます。だから自分は、配分を決めるときに、いつも「大胆になれているか」を自分に問うようにしています。

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「大胆に」とは、絞ること

「大胆にリソースを配分する」とは、要するに、テーマを絞ることだと考えています。あれもこれもと欲張らず、ここと決めたテーマに寄せ切る。大胆さの正体は、思い切って絞ることのほうにあるんですね。

経験則として、半期で組織が持つテーマは、3個ぐらいに絞る。 そして、その3個に落とし込んだ戦術を、やり抜く。さらに個人のレベルまで下りていくと、一人が同時に持つテーマは、せいぜい2つ、できれば1つに集中する。そのほうが、結局は成果が出ます。理想を言えば、それくらいシンプルなところまで絞り込みたい。たくさんのことを並行して進めているほうが、忙しく見えるし、何かをやっている感じはします。でも、忙しさと成果は別物です。

ところが、多くのスタートアップを見ていると、逆のことが起きています。「あれもこれもやらなきゃ」と、手を広げすぎてしまうんですね。新しい市場、新しい顧客、新しいプロダクト、可能性は無数に見えます。その可能性を広げられること自体は、素晴らしいことです。事業に勢いがある証拠でもある。ただ、可能性が見えていることと、そこで成果を出せることは、まったく別の話です。注力しないと、成果は出づらい。 どの可能性も中途半端なまま、リソースだけが薄く散っていく。これは、自分がプレイヤーとして動いていても、他の人を見ていても、何度も感じてきたことです。

マッキンゼーの『ホッケースティック戦略、成長戦略の策定と実行』(クリス・ブラッドリー、マーティン・ハート、スヴェン・シュミット)という本があります。この本は2,393社・15年分のデータを分析して、企業の業績が何で決まるのかを定量的に明らかにした一冊で、とても好きな一冊です。

詳しい解説は以下のnoteにもまとめています。

2022/7/4週|戦略の成功確率を高めるには? ホッケースティック戦略🏒🏒🏒🏒🏒

この本では、企業の業績が「パワーカーブ」、いわゆる「べき乗則」の分布の上に並ぶ、という見方を取ります。利益の大部分は、カーブの右端に集中している。だから、優れた戦略を立てるなら、このパワーカーブの右側へ移動することを目指すべきだ、と。

そして、その右側へ移動できる成功確率を、何が押し上げるのか?

本書は、それを「所与の企業力/トレンド/施策」の3つに分けた上で、中でも「施策」の影響がいちばん大きい、と結論づけています。スタート時点の企業の体力でも、追い風の有無でもなく、企業が自分で取る活動、施策、が、最も効く、ということです。

その施策の一つとして挙げられているのが、まさに今回のテーマと重なるもので、「経営資源の配分の活発な見直し」、本書の言葉でいう「メリハリ」です。中身は、こうです。成長の可能性がある領域には、十分にリソースを投資する。同時に、可能性の低い領域への投資は、極小化する。リソースを動かすところと、引くところの、メリハリをつけよ、と。

本書では、 「ピーナッツバターをサンドイッチいっぱいに薄く広げるのは、事業にとっては有効ではない」 と書かれています。リソースを、サンドイッチに塗るピーナッツバターのように、全体へ均等に薄く伸ばしてしまう。一見、行き渡っているように見えて、実はどこも厚みが足りない。これではダメだ、というわけです。

もう一つ、施策は、「十分に大胆」でなければ成果につながらない、というところです。本書は、はっきりこう言っています。5つの施策を「適当な力で」実行するだけでは、カーブ上昇の確率は上がらない。業界水準と同じペースで進めても、大きな成果は期待できない。特定の閾値を超える、大胆な施策を行って初めて、パワーカーブの上昇率が上がる、と。中途半端な大胆さでは、しきい値を越えられないんですね。

本書は、それを一言で、こう問いかけています。「大胆か、大いに大胆か」。

同業他社と歩調を合わせる程度の改善では足りない。業界や競合と比べて、本当に大胆だと言えるのか。大いに大胆だと言えるところまで振り切れているのか。

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例①:エリアを集中させる

では、ここから実例を2つ書きます。1つ目は、エリアを集中させるという戦い方をした話です。

タイミーの成長におけるあるフェーズでは、特定のエリアに、人もお金も集中させて、そのマーケットを立ち上げることが、事業的にとても重要でした。

背景には、タイミーという事業の構造があります。タイミーは、人手を求める事業者の側と、働きたいワーカーの側、この両面をつなぐ、いわゆるツーサイドプラットフォームです。こういう事業特有の特徴として「密度」、そこから派生する「商圏」があると考えます。

ツーサイドプラットフォームの立ち上げで鍵になるのは、いかにこの密度を濃くしていくか。

その際の制約条件が商圏です。当然ながら働き手には、移動できる範囲に限りがあります。どんなに遠くに良い募集があっても、通えなければ意味がありません。

通える距離の働き手が集まるので事業者も募集を出すし、通える距離の募集案件があるからこそ働き手もアプリを開く。商圏内でこうした状態(いわゆるネットワーク効果)を作っていくためには資金面での制約が大きいスタートアップとして、メリハリをつける必要がありました。これは投資をしないエリアも決めなくてはいけないことを意味します。

言うは易しな部分としてはマーケティングプロモーションの観点だと、一般的に対象を絞れば絞るほど獲得効率は悪化します。つまり、パフォーマンスの悪化というデメリットを見込んででも事業成長のために優先事項としてエリア集中を判断する必要がありました。

具体的なプロセスとしては、経営会議や経営合宿での議論の末、エリア集中を議論し、決めました。これはマッチングのプラットフォームとして、ユーザー獲得を担うマーケティングサイドのみならず、募集側を担うセールスサイドも足並みを合わせないといけない点がポイントであったためです。

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例②:

小規模事業所の担当をしていた時の話です。その時はマーケティング・インサイドセールス・カスタマーサクセス(CS)を限られた人員で担っていました。小規模の事業所は数多く存在しており、少ない人数で多くの顧客の満足度をどう担保するかが売上の観点からも重要と見ていました。

人数を一定固定して事業を進める必要があったので、issue(テーマ)として設定していたものはこの組織全体で3 ~ 5個から始めました。あれもこれも課題はあるのですが、それらを顧客のフロー、自社のオペレーションフローに沿って最大限書き出したうち、

・顧客体験上最も解決しなければいけないポイントはどこか?

・自社のオペレーションで最も解決しなければいけないポイントはどこか?

を協議し、半年間のテーマを絞り込むことに最初に手をつけました。

結果、それぞれが1 ~ 2テーマの中で成果創出に取り組む状態を作り、成長率はYoY300%を超えていきました。

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②の続きへ|戦略の蓋然性を高める

ここまで、リソース配分を「大胆に」決めるとはどういうことかを書いてきました。整理すると、大胆に配分するとは、要するにテーマを絞ること。薄く広げず、ここと決めた一点に寄せ切る。その具体的な戦い方として、密度がものを言うエリアに集中する戦い方と、少ない人数で取り掛かるべき課題を絞り込むことを見てきました。

ただ、ここまで読んで、こう思った方もいるはずです。「大胆に張れと言うが、その張り先が間違っていたら、大胆さは、ただの無謀になるのではないか」と。まさに、そこが次の論点です。大胆に張った配分が、どれだけ確からしいのか、その蓋然性をどう高めるか。これは、それ自体が大きなテーマなので、次回2-3「戦略の蓋然性を高める」で扱いたいと思います。

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この連載について

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    この記事のまとめ(Q&A)

    リソース配分で大事なことは?

    大胆に配分すること、そしてその「大胆に」とは、要するにテーマを絞ることだと考えています。限られたリソースをあちこちに薄く広げると、どの場所も臨界点を超えられず、結局どこにも効きません。経験則として、半期で組織が持つテーマは3個ぐらいに、個人が同時に持つテーマはせいぜい2つ、できれば1つに絞る。そのほうが成果が出ます。マッキンゼーの『ホッケースティック戦略』も、リソースを「ピーナッツバターのように薄く広げる」のは有効でなく、成長可能性のある領域に十分投資し、可能性の低い領域は極小化する「メリハリ」が効くと示しています。しかも、施策は業界水準と同じペースではダメで、しきい値を超えて「十分に大胆」でなければ成果につながらない。大胆か、大いに大胆か、配分を決めるときは、常にこれを自分に問うようにしています。

    ツーサイドのマーケットで、密度が重要なのはなぜ?

    両者がマッチングする「密度」が、事業の構造的な優位性に直結するからです。タイミーのように、人手を求める事業者の側と、働きたいワーカーの側をつなぐツーサイドプラットフォームでは、働き手の移動できる範囲に限りがあります。だから、特定の場所で集中的に募集を出して「マッチングが確実に起こる状態」をつくれるかどうかが鍵になります。密度が濃くなると、ネットワーク効果が働きます。事業者は確実にマッチングするからさらに募集を出し、ワーカーは常に募集が出ているからアプリを開く。この循環がいったん回り始めると、密度が密度を呼んで加速していく。だから特に初期は、エリアや特定領域を集中させ、人もお金も最大限に寄せることが効きます。