前回の記事では、インサイトを抽出する技術、CM制作のプロセスを通じて、どう顧客の本音を掴むかを書きましたが、あわせて記載したのが、個人がインサイトを掴んでも、それが組織で共有されなければ、事業は動かないという点でした。
たとえば、一人のマーケターが、誰よりも深くその顧客を理解していたとします。何に困り、何を求め、なぜ動くのか。本当に解像度高く掴んでいる。でも、その理解が、その人の頭の中だけにあったらどうなるか。プロダクトはプロダクトで別の顧客像を描き、セールスはセールスで違う顧客像を語り、CSはまた別の顧客を見ている。すると、組織から出ていく価値は、ちぐはぐになります。
この「ちぐはぐ」が、悪い意味で表出化しているケースの例は、プロダクトが実際に提供している体験と、コミュニケーションで約束した体験がズレている場合です。広告では「こういう価値が手に入る」と語っているのに、実際に使ってみると、その体験が用意されていない。逆に、プロダクトには素晴らしい価値があるのに、コミュニケーションがそれを言い当てられていない。どちらも、顧客理解が組織の中で共通言語化されていないから起きると考えます。
したがって、①顧客解像度ブロックの最後となるこの記事では、個人が掴んだ顧客理解を、どうやって組織の共通言語にしていくか、その仕組みを書きます。
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前回の記事でも記載しましたが、顧客理解の深さは、他社が簡単には真似できない競争優位の源泉になると考えていますになるからです。
以下は縦軸に「顧客理解の深さ」、横軸に「コミュニケーションを含むプロダクトマーケットフィット」、つまり、自分たちが発しているコミュニケーションが、市場にどれだけフィットしているか、を取ったマトリクスです。
!顧客理解の深さとマーケットフィットの関係の概念図
顧客を深く理解するほど、刺さるコミュニケーションを設計できる。そのコミュニケーションが市場にフィットする。その結果として、プロダクトが市場に受け入れられ、PMFに近づいていく。深い顧客理解 → 刺さるコミュニケーション → 市場へのフィット → 結果としてのPMF、という流れです。だから、PMFそのものを直接狙いにいくより、その手前にある顧客理解の深さを上げることのほうが、実は本質的な打ち手になります。
このマトリクスで自分たちが目指すのは、競合より少し前、0.5歩〜1歩、先んじて顧客を理解している状態です。。
具体的には、先んじている状態には、2つの条件があるのではないかと考えます。
一つ目は、自分たちなりの仮説を構築できていること。
これまでになかった価値の仮説を立て、しかもそれを表現にまで落とし込めている、という状態です。「こういう人が、こういう場面で、こういう価値を求めているのではないか」という仮説を、ただ頭の中で考えているだけでなく、コミュニケーションとして表に出せるところまで持っていけている。
二つ目は、その仮説を市場に問いかけ、フィードバックを得られていること。
仮説を立てて終わりではなく、実際に市場に投げかけて、反応を受け取っている。当たっていたのか、外れていたのか。外れていたなら、どこがどうずれていたのか。それが返ってくる状態になっている。
ここで前回までの話とつながります。1本目の記事1-1. 6年で指名検索13倍|顧客解像度がすべての起点で、自分は「フルスイング」という言葉を使いました。
意図を持ってフルスイングすれば、空振りしても何が悪かったかを必ず特定できる、と。これは、まさにこの「先んじた顧客理解」の話です。自分たちの仮説を持ってフルスイングできていれば、結果が良くても悪くても、次につながる知見が残るということです。
競合のクリエイティブをなぞるだけでは、その競合を追い越すことはできません。 なぞっている時点で、相手の後ろにいることが確定しているからです。表に出ているクリエイティブは真似できても、その裏にある顧客理解の深さや、仮説を立てて市場に問い続けるプロセスは、見えないし、簡単には移植できない。
だから、強い顧客理解の文化は、模倣されにくい競争優位、いわば堀(moat)になります。 プロダクトの機能なら、見て真似できる。価格も、真似できる。でも、組織の中に流れている「誰よりも深く顧客を理解しようとする文化」は、機能のように見て真似できるものではない。これが、顧客理解を一部の人の頭の中にとどめず、組織全体に流通させることの、本当の意味だと自分は考えています。一人の天才が深く理解しているだけなら、その人が抜けたら終わりです。でも、組織の文化として根づいていれば、それは事業の土台として残り続けます。
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では、具体的にどうやって顧客理解を組織に流通させるのか。
具体的には、商談や顧客接点の場に、マーケティングのメンバーも同席する。あるいは、その場に立ち会えなくても、録画を見る。これは前回までにも触れた、共通言語化の話と地続きです。資料で「顧客はこう言っています」とまとめられたものを読むのと、実際に顧客がその言葉を語っている声を聞くのとでは、解像度がまるで違うんですね。顧客の言葉を、できるだけ加工しない状態で、できるだけ多くのメンバーに触れさせる。 要約された結論ではなく、生の言葉に触れてもらう。これが、共通言語をつくる出発点になります。
タイミー時代にはユーザー調査やユーザーが集まるミートアップのような場に、マーケティング部以外のメンバーも参加してもらう、ということをやっていました。エンジニアや営業など職種を問わずに実際にユーザーと接触してもらいます。
これをやることの大きな理由の一つは、「自分たちは誰を助けるために働いているのか」を、頭ではなく体で理解してもらうためです。職種が違えば、日々向き合っているものも違います。エンジニアはコードに、営業は数字に向き合っている。それ自体は当然のことなのですが、放っておくと、自分の仕事の先にいる「顧客の顔」が、だんだん抽象的になっていく。だから、意図的に現場に連れ出して、顧客と直接触れる時間をつくる。これをやると、その人の中で、顧客が「データ上の何か」から「具体的な誰か」に変わります。
タイミーの場合、提供している価値が強かったこともあって、顧客と直接話すと、いいフィードバックが返ってくることが多かったんですね。すると、何が起きるか。触れたメンバーの熱が、上がるんです。これは、何度も目にしてきた光景です。顧客と話したあと、その人の体温がこもったような話し方になる。顔が明るくなる。「自分のやっていることは、ちゃんとこの人の役に立っている」という手応えが、その人の中に生まれるからだと思います。
そして、この熱が共有されると、組織の動きが変わります。共通理解を持って、「この顧客のために価値をつくろう」という方向に、みんなが動きやすくなる。顧客理解の流通は、情報の共有であると同時に、熱の共有でもあるんですね。ここが、ドキュメントだけでは代替できない部分だと感じています。
そして、こうした接点を、一過性のイベントで終わらせないことが大事です。顧客と会える機会そのものを、恒常的に仕組みとして用意しておく。
たとえば、月に数十人規模で顧客と会える場を設ける。たとえば、全社の問い合わせ窓口を整え、そこに集まる生の声が、然るべき人に届くようにする。日常の業務フローの中に、顧客と会う機会を組み込んでおくと次第にそれが当たり前(文化)になっていくのではないでしょうか?
接点をつくっても、得られた理解がその場限りで消えてしまっては、流通したことになりません。だから、ヒアリングの結果は、社内ドキュメントとして残します。
ここでのポイントは、一過性で消さない、ということです。インタビューで掴んだ顧客理解を、ドキュメントの形で蓄積し、誰でもあとから参照できるようにしておく。そうすることで、個人の頭の中にあった理解が、組織の記憶になります。人が入れ替わっても、その記憶は残る。これも、顧客理解を「個人の資産」から「組織の資産」に変える、地味だけれど効く仕組みです。
しかし、Notionにドキュメントがあっても、誰も見に来なければ流通していません。流通の仕組みはいろいろ考えられますが、月次のマーケティング本部の会議で、顧客理解を共有することだったり、全社の総会でユーザーに登壇いただく、経営合宿に来ていただく、などがタイミー時代に行われていた仕組みです。
そして、これがいちばんの肝なのですが、顧客に触れて終わり、ではありません。 触れたあとに、得た気づきを社内で共有する。ここまでやって初めて、流通したことになります。
接点をつくり、そこで得た気づきを共有する。これを繰り返していくと、顧客への共通理解が、組織の中にだんだん溜まっていきます。一回触れただけでは、その人個人の体験で終わってしまう。でも、「自分はこういう顧客に会って、こう感じた」を共有する場があると、その気づきがチームの財産・共通理解になります。
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このように全社的に顧客と向き合うようになると例え部署が違っても限りなく近い顧客像で動けるようになります。プロダクトも、セールスも、CSも、頭の中に描いている顧客が揃ってくる。冒頭で書いた「ちぐはぐ」が、減っていくわけですね。
採用にも効きます。面接の場で、「うちの顧客」を自分の言葉で語れる人が入ってくるようになる。顧客理解が組織の共通言語になっていると、面接でもその言葉が共有されるので、同じ目線を持った人が集まりやすくなります。
さらに、提案そのものが変わります。顧客を深く理解していると、提案に熱と踏み込みが出る。プラットフォームに参加しているプレイヤーのことを肌でわかっているから、表面的な提案で終わらない。場合によっては、自分たちとのマッチ度が低いと感じたときに、無理に売り込まず、相手にとっての改善提案まで踏み込める。「それなら、こうしたほうがいいと思います」と言える。これは、顧客を深く理解しているからこそできることです。
目指すのは、全員が顧客について、共通認識で話せている状態です。
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ここまで書いてきた「顧客理解を組織で流通させる」という営みは、誰の仕事なのか。自分は、これはCMOの仕事だと考えています。
この連載の入口で、自分はCMOをこう定義しました。「マーケティングの責任者」ではなく、「分業で分断された機能を、意図せざるマイナスごと拾って統合し、事業を伸ばす主体」だ、と。組織が効率を求めて機能を分けるほど、部門と部門の「あいだ」に、誰も意図しなかったマイナスが落ちる。それを拾い、機能を繋ぎ直すのがCMOだ、という話でした。
顧客理解を組織に流通させるというのは、まさにこの定義の実装そのものなんですね。プロダクトとセールスのあいだ、セールスとCSのあいだ。それぞれが別々の顧客像を持っていると、その継ぎ目に「ちぐはぐ」というマイナスが落ちる。冒頭で書いた、プロダクトの体験とコミュニケーションで約束した体験のズレも、まさにそのマイナスです。同じ顧客像を、全部門が共有していれば、そのマイナスは発生しません。
だから、CMOがやるべきは、顧客理解を「マーケティング部門の資産」のままにせず、全社の資産に変えることです。一部の人の頭の中にある理解を、組織全体に流通させる。そのための仕組みを設計し、人が入れ替わっても回り続けるように、業務の中に埋め込み、回し続ける。
これは、正直に言って、派手な仕事ではありません。商談に他部署を同席させる、録画を見てもらう、ヒアリングをドキュメントに残す、顧客と会う場を恒常化する、どれも地味です。でも、ここを担う人がいるかどうかで、組織が同じ顧客を見続けられるかが決まる。 誰かが意図的に設計し、回し続けないと、顧客理解は自然と部門の中に閉じていきます。放っておけば分断するからこそ、それを繋ぎ直す主体が要る。それがCMOの役割だと、自分は考えています。
CMOとして、社内で一番顧客を知っている状態を目指しましょう。
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ここまでで、①顧客解像度ブロックの3本、1本目の「指名検索13倍」、2本目の「インサイト抽出の技術」、そして今回の「顧客理解を組織で流通させる」、が、ひとまず完了します。
振り返ると、こういう流れでした。すべての起点は顧客解像度であり(1本目)、その解像度を上げるにはインサイトを抽出する技術が要り(2本目)、そして掴んだ理解は、個人の中にとどめず組織で流通させてこそ事業が動く(今回)。顧客理解を、起点から、技術、そして組織への流通まで、一通り掘ってきたことになります。
ここから連載は、②戦略+戦術へ進みます。組織に流通した顧客理解を、今度はどうやって戦略と戦術に変換していくのか。深く理解し、組織で共有された顧客像をもとに、限られたリソースをどこに張り、どう打つのか。次のブロックでは、そこを本格的に扱っていきます。顧客解像度という土台ができたら、いよいよ、その上にどう事業の構造を捉え、どこで戦うかを決めていく段階です。
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顧客の言葉を、加工しない状態で、できるだけ多くのメンバーに触れさせることが出発点だと考えています。本記事では、❶商談への同席や録画視聴で生の顧客接点を部門を越えて共有する、❷ユーザー調査やミートアップにマーケ以外も参加して現場を体感する、❸顧客と会える機会を月数十人規模・全社窓口などで恒常化する、❹ヒアリング結果を社内ドキュメントとして残し組織の記憶にする、❺触れて終わりにせず得た気づきを社内で共有する、という仕組みを挙げました。要約された結論ではなく、生の言葉と気づきを流通させることが肝です。
ここでいう共通言語とは、プロダクト・セールス・CSなど職種の違うメンバーが、同じ顧客像を、同じ言葉で語れている状態のことです。一人のマーケターが深く理解していても、それが個人の頭の中だけにあると、各部署がバラバラの顧客像で動き、組織から出ていく価値がちぐはぐになります。顧客の生の言葉と、そこから得た気づきを組織に流通させ、全員が顧客について共通認識で話せている状態をつくる。それが共通言語をつくる、ということだと捉えています。
顧客を深く理解するほど、刺さるコミュニケーションを設計でき、それが市場にフィットし、結果としてPMFに近づくからです。そして、表に出ているクリエイティブは真似できても、その裏にある顧客理解の深さや、独自の仮説を立てて市場に問い続けるプロセスは、外から見て真似できません。だから、強い顧客理解の文化は、機能のように見て模倣できるものではなく、模倣されにくい競争優位、堀(moat)になります。一人の天才の頭の中ではなく、組織の文化として根づいているほど、その堀は深くなります。
同じ顧客像を共有することが土台だと考えています。営業は日々クライアント顧客と接している、顧客理解の最前線です。その最前線の気づきが組織に還流する仕組み、商談の同席や録画の共有、気づきの共有の場を通じてマーケも肌感を養うようにすると営業が同じ顧客を見て動けるようになります。さらに、顧客と直接触れて得た手応えは、メンバーの熱を上げ、提案に踏み込みを生みます。連携は、組織図を整えることではなく、同じ顧客像と熱を共有することから生まれると捉えています。