2-1. 事業を立体的に捉える|複数の切り方で構造を分解する

前回の1-3. 顧客理解を組織で流通させる|共通言語をつくる仕組みまでで、①顧客解像度のブロックを3本かけて掘ってきました。すべての起点は顧客解像度であり、その解像度をインサイトの抽出で深め、掴んだ理解は個人の中にとどめず組織で流通させてこそ事業が動く、という流れです。

!1号メソッド

次は顧客解像度という土台ができたら、いよいよ、その上にどう事業の構造を捉え、どこで戦うかを決めていく②戦略+戦術のブロックに入ります。

まず決めるべきは、どこを目指すのかというゴールです。多くの場合は事業計画における目標値で表されることが多いのではないでしょうか。

ゴールに至る戦略を決めていく上でよくある落とし穴として、事業を一つの切り口だけで見てしまうことがあげられます。たとえば「全体の売上」という一枚の断面だけを眺めて、上がった・下がったと一喜一憂する。でも、その一枚の絵だけでは、どこに伸びしろがあって、どこが詰まっているのかは見えてきません。蓋然性の高い戦略構築には、複数の切り方で構造を分解して、立体的に捉える必要があると考えます。

なぜ「複数の切り口」なのか。根っこにあるのは、事業は、一度に完全には捉えきれない、という考えです。どんな切り口も、それ単体では事業の一面しか映さない、不完全なものでしかない。だからこそ、その不完全なものを複数の角度から重ねて、事業の輪郭を捉えにいく、そういう発想です。

それをできるようにするための下地として、事業の理解を深めるための行動として、タイミー時代には自分で手を動かして分析したものをスライドに書きためることをやっていました。こちらのスライドは6年間で約300枚程度になっていました。その中身は色々な形で事業の数値を分析したものであり、それらによって事業の輪郭を肌に馴染ませていました。

この作業の効能としては、継続していると、事業の数値に影響を与えるレバーにはどんなものがあり、どんな相互作用のメカニズムがあり、どれが変数でどれが定数なのか、が見えるようになってきます。

もちろんこれは事業が進捗する中でデータが貯まり、徐々に見えてくるものであるので継続的に見続けることが最も重要です。また、こちらは戦略・戦術のパートに分類していますが、実際には顧客の理解度を高める営みでもあります。

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戦略をつくる、2つのステップ

この連載ではマーケティングを以下と定義していました。

マーケティング=誰よりも深い顧客理解を元にして、限られたリソースで一定期間に事業を最大化する取り組み

②では、その理解を土台にして、後半の「限られたリソースで、一定期間に、事業を最大化する」をどう設計するかに入っていきます。顧客理解を基に戦略をつくる、ということです。

具体的なステップは以下となります。

❶ 事業を、複数の切り口で構造分解し、立体的に捉える。

❷ どこが成長のレバーなのか、そして、そこに蓋然性があるのかを検証する。

この2つを順番に、そして何度も回していく。このプロセスが、自分の中での戦略づくりの骨格です。

ちなみに、この「不完全な道具を複数重ねて輪郭に迫る」という発想は、後の③計測のブロックで出てくる三角測量の考え方と、まったく同じ思想です。事業を測るときも、完璧な一本のものさしは存在せず、不完全な複数の指標を突き合わせて実像に近づけていく。ここでは伏線として置くだけにして、深掘りは3-2「三角測量という考え方」に譲ります。

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事業を分解する切り口

では、具体的に、どんな切り口で事業を分解していくのか。

いくつかの切り口の例は以下の図のようなものです。

!KGI分解の切り口

以下は、自分が在籍していたタイミーでの例を公開可能な範囲で書きます。タイミーは、働き手(ワーカー)と、人手を求める事業者(クライアント)をつなぐサービスです。この前提を頭の片隅に置いて、読み進めてください。

まず、売上を要素で分解する

最初に基本になるのは、売上を要素に分解することです。

タイミーは稼働回数ごとのサービス手数料が収益となっていますので、売上高はざっくり書くとk、稼働回数 × 稼働単価に分解できます。

この稼働回数をさらに分解していきます。

たとえば「稼働回数」をさらに2つに分けて見ていました。

一つ目は、既存ワーカーの稼働回数。 前月までに稼働した履歴がある方が、何人、どれだけ働いてくれるか、という部分です。

二つ目は、新規ワーカーの稼働回数。 当月に初めて働く方が、どのくらい発生し、どれだけ稼働してくれるか、という部分です。

同じ「稼働回数」でも、既存の方が積み上げてくれる分と、新しく入ってきてくれる方の分とでは、動く理屈がまったく違います。だから、ひとくくりにせず分けて見る。そして、それぞれに対して、見るべきポイントも変わってきます。

既存ワーカーについては、季節性やユーザーの動向といった要素を織り込んで見ていきます。前月までに働いてくれていた方々が、今月はどういう状況で、どれくらい稼働してくれそうか。ここには、その時期ならではの波や、ユーザー側の事情が効いてきます。データの蓄積によってある程度の精度で見積もれるようになっていきます。

新規ワーカーについては、見る角度が変わります。前月以前にインストールしてくれた分も含めて、今月どの程度の新規稼働ワーカー数を見込めるのか。そして、予想される募集に対して、稼働回数のレート(稼働率)を高く保てるのか。逆に言うと、目標の稼働率を達成するためにどのくらいのインストール数が必要なのか?

それは許容できるCPIベースで見た時にデジタル広告のみで達成可能なのか?CMのような施策も必要なのか?

こうして、ひとつの「売上」という数字を、要素に分け、その要素をさらに分け、それぞれを別々の理屈で見ていく。全体では見えなかった動きが、分解していくと、ひとつずつ輪郭を持って見えてきます。

そして大事なのは、ここで分けた一つ一つが、打ち手のレバー対象になる、ということです。「売上を伸ばす」という大きな塊のままだと、どこから手をつけていいか分かりません。でも、「既存ワーカーの稼働回数」「新規ワーカーの稼働回数」というところまで分解できていれば、それぞれに対して別々の打ち手を考えられる。既存の方の稼働を厚くするのと、新規の方を最初の稼働まで運ぶのとでは、効く施策がまったく違いますから。分解は、それ自体が目的ではなく、打ち手を当てられる粒度まで事業を見えるようにするための作業でもあります。

別例|段階で分けて、乖離を見る

こちらはいわゆるファネルの可視化ですね。

この「価値が発生する行動まで分解する」という発想は、業種が違っても同一である場合は多いです。こちらでは自分が関わったタクシー配車アプリ、JapanTaxiの例で書きます。

配車アプリの事業は、以下の段階を経ていきます。ダウンロード数 → MAU(毎月アプリを起動してくれるユーザー) → 配車数(実際に配車が成立した回数)、という順番です。アプリを入れてくれた人がいて、その中に継続的に使ってくれる人がいて、さらにその中に、実際に車を呼んで乗ってくれる人がいる。だんだん絞られていく構造になっています。

ここで肝になるのは、一番下流にある「配車数」こそが、売上に直結する行動だということです。ダウンロードされただけでは、まだ事業になっていない。アプリを開いて使ってくれていても、まだです。実際に車を呼んで、乗ってもらって、はじめて売上が生まれる。タイミーでいう「稼働回数」と同じ位置づけの指標ですね。

そして、ここに複数の切り口で見ることの効き目が、はっきり出ます。たとえば、ダウンロード数もMAUも目標を達成していて、上流の指標だけを見ると事業は好調に見える。ところが、肝心の配車数だけが目標を下回っている、ということが起こり得ます。

(KPIの話になってしまいますが、よくあるケースとして、マーケのチームの目標を上流のものに設定しているのを目にしますが、この設定が果たしてベターなのか、という問いもあります)

この時、段階を切り分けて初めて、「打つべき手は、新規の認知を増やすことではなく、使ってくれている人を配車まで運ぶことだ」と、手の方向が定まります。

顧客セグメントで分解する

一つ目の派生ではありますが、顧客セグメントで分解する方法がいくつかあります。

タイミーでは毎月の稼働回数によって分類したり、エリアごとの分類をするだったり、デモグラフィックでの分類だったりといくつもの切り口で見て、どういう顧客の集まりが、それぞれどれだけのインパクトがあるのかの理解を深めていました。

こうしていくことで、動かせそうな顧客の集まりや、これからさらに伸ばすべき集まりが特定できたりします。

以上のように、売上の要素分解、ファネル、顧客セグメント等々でいくつもの切り口を重ねていきます。多角的に分析することで、限られたリソースを、いったいどこに投下すべきなのかが、だんだん突き詰まっていきます。

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どこを目指し、どこに張るかの決め方について

ゴールが定まり、複数の切り口で立体的に捉えると、そのゴールを実現する手段、どこで戦い、どう張るか、のレバー候補が、いくつか見えてきます。では、その中から「ここに張る」をどう決めるのか。

正直なところ、この場所選びと張り方は、動かしながら判断していく部分が大きいです。立体的に捉えた時点で答えが一意に決まる、ということは、自分の経験ではあまりありません。いくつかの候補が見えて、そこに少しリソースを置いてみて、反応を見て、また配分を変えていく。そういう動的なプロセスです。

人も、お金も、時間も、有限です。その有限のリソースを、どこにどれだけ配分するか。自分は、このアロケーション(配分)の意思決定こそが、経営であり、マーケティングだと考えています。どこを目指し、その目的地に向かって、限られた手持ちをどう割り振るか。突き詰めれば、戦略とはこの配分の問題に行き着きます。

加え、戦略は、最初から頭の中にあるものではなく、事業を立体的に捉えていく過程で、輪郭を現してくるものだと自分は捉えています。

こちらに関しては次の記事で例を切り出して紹介します。

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次回へ|リソース配分を大胆に決める

ここまで、戦略づくりの入口を書いてきました。整理すると、こういう流れです。まずどこを目指すのかというゴールを定める。これが主です。そして、そのゴールを実現するための手段として、「どこで戦うか(場所選び)」と「その場所をどう登るか(リソースの張り方)」を見極めていく。その見極めのために、事業を複数の切り口で構造分解し、立体的に捉える。立体的に捉えると、どこがレバーになりそうかが見えてくる。その中から、動かしやすいレバーに重点的にリソースを張ることを決め、経営と合意形成をしていく。そして、戦略は、その事業ならではの成長ストーリーとして立ち上がってくる。

立体的に捉え、目指すゴールとレバーが見えてきたら、次の問いは、そのレバーに、限られたリソースをどう大胆に配分するかです。薄く広げるのではなく、ここと決めた場所に寄せ切る、その思い切りの部分。次回2-2では、その「リソース配分を大胆に決める」を具体的に書いていきます。

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この連載について

『CMO大全』は、「マーケティング機能の実装の民主化」を目指して書いています。専任のCMOがいない会社でも、マーケティングを自分たちで実装できるように。

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    この記事のまとめ(Q&A)

    事業を構造的に分解するとは?

    ひとつの切り口だけで事業を見るのではなく、複数の角度から断面を取り、それを重ねて立体的に捉えることです。根っこにあるのは、事業は一度に完全には捉えきれない、という感覚で、不完全な切り口を複数重ねて輪郭に迫っていきます。たとえば売上を「稼働回数」「募集人数」といった要素に分解し、さらに稼働回数を既存・新規に分ける。あるいは配車アプリなら、ダウンロード数→アクティブユーザー→配車数という段階に分け、売上に直結する下流の指標と、上流の指標との乖離を見る。それとは別に、顧客セグメントで切る、ファネルで切る、その背後のユーザー行動で捉え直す、こうしていくつもの切り口を重ねると、全体の数字を見ているだけでは分からなかった「どこに伸びしろがあり、どこが詰まっているか」が浮かび上がってきます。一度きれいに分解して終わりではなく、事業の状況が移ろう中で、切り口を変えながら分析を繰り返し、事業の仕組みへの理解を深めていくものだと捉えています。

    戦略を決める前に、何を見るべきか?

    まず「どこを目指すか」というゴールを明確にすることだと考えています。これが主であり、出発点です。「どこで戦うか(場所選び)」や「その場所をどう登るか(リソースの張り方)」は、そのゴールを実現するための手段として、ゴールにぶら下がってくるもの。場所選びをゴールと並ぶ二択のように先に決めにいくと、その選択が正しいかどうかは判定できません。ゴールを置いたうえで、事業を複数の切り口で立体的に捉え、どこが成長のレバーになりそうか、そこに蓋然性があるかを検証する。ゴールを置き、立体的に構造を見て、レバーを見極める、戦略は、その過程の先に浮かび上がってきます。

    戦略とは何か?

    その事業ならではの成長ストーリーだと、自分は捉えています。借りてきたフレームワークを当てはめれば出てくるものではなく、その事業を複数の切り口で立体的に捉え、限られたリソースをどこに張れば伸びるのかを突き詰めた先に、その事業にしか書けない物語として立ち上がってくるもの。どこを目指し、有限の人・お金・時間をどう配分するか、このアロケーションの意思決定こそが、経営でありマーケティングであり、戦略の核心だと考えています。